衆議院議員 松島みどりブログ

話題のトピックについて、詳細に触れています。

2021年5月21日以前の記事です。

女性の再婚禁止期間、撤廃へ。父子関係の否認、子にも提訴権 法制審中 間答申

2021.03.23

 法制審議会で民法(親子法制)改正論議が進んでいます。私が人権上の問題として取り組んできた「無戸籍者の解消」に大いに役立つ方向です。2月にまとめられた中間試案には、女性の再婚禁止期間(現在は100日間)を撤廃する方針も盛り込まれました。

 改正のポイントは(1)子の出生時に母が再婚していた場合、再婚後の夫の子とする(2)嫡出否認の提訴権を未成年の子に拡大する(母が代行)妻が夫以外の男性の子を妊娠した場合、離婚後すぐに再婚し、その後出産すれば、再婚後の夫の子として届けられます。再婚していない場合でも、「前の夫の子どもでない」と子が嫡出否認を家庭裁判所に提訴できる(実際は母が代行)というわけです。

 明治以来の現行法では親子(父と子)関係について(1)婚姻から200日以内に生まれた子は、夫の子と推定しない(推定されない嫡出子)(2)その後の婚姻中及び離婚から300日以内に生まれた子は、夫(元夫)の子と推定する(3)この推定は、夫が子の出生を知った時から1年以内に嫡出否認の訴えを提起した時に限り、否認することができる、と定められています。

 これをもとに、「父親の推定」がだぶらないよう、女性の離婚後100日間(5年前までは6か月間でした)再婚できない規定が設けられています。DNA鑑定で親子関係が容易に判定できるようになった今、多くの規定の見直しが必要になっています。

 たとえば、夫のDVに苦しみ、しかも夫が離婚に同意してくれず、身を隠しているという立場の女性が、他の男性の子を宿し、出産した場合、出生届を出せば、法律上その夫の子となってしまうし、自分の居住地なども知られてしまいやすい。そんな理由で出生届を出していないのが「無戸籍者」発生の主な原因です。

 私は法務大臣の時以来、「無戸籍の日本人をなくすことは、『人権問題の1丁目1番地』と考えてきました。

 今は、無戸籍者でも学校に通ったり、住民票を取得したりすることができるようになりましたが、3年前、自民党司法制度調査会長時代に行ったヒアリングでは、30代になってやっと戸籍を取得できた女性から、「子どもの時は、学校にも行けず、歯が痛くても保険証がないため治療できなかった。今、初めて小学校からやり直していますが、満足です」という話を聴き、同僚議員ともども涙が止まらなかった経験があります。この年、法務大臣に提出した調査会の報告書に「嫡出否認の提訴が父親にしかできないのはおかしい。子(実質、母)にも広げるべきだ」という内容を盛り込みました。それを受け、法務省は法制審議会での議論を始めたのです。

 ことし4月、特別定額給付金(10万円)の支給が決まった際、「住民票を持たない『無戸籍の人』」にも給付するよう、森まさこ法務大臣、高市早苗総務大臣に申し入れました。(住民票を持っている人には、自治体から自動的に通知が届く仕組みでした)その結果、法務局が「無戸籍者として把握している」と区市町村に証明した場合は、給付金を受けられるという対応をしてもらいました。
 この措置で住民票もない323人の無戸籍者に無戸籍者に特別定額給付金が支給されました。

 特別定額給付金の話が出たとき、私は「無戸籍状態が少しでも解消されるチャンス」と思ったのです。
 無戸籍の人の中には、過去に自治体などに相談して嫌な思いをした人も少なくありません。生活の忙しさもあって2度と役所にはかかわりたくない、という人も多いでしょう。

 しかし、「10万円もらえるなら、手続きに挑戦してみよう」という人も出てくるでしょうから、それがきっかけで、住民票を取得したり、さらに法務局や法テラスに相談して戸籍取得までがんばったりしてくれることを、私は4月以来、願ってきました。

 法務省は「住民票のない無戸籍者」として4月30日時点で318人を把握していましたが、11月10日までに新たに186人を把握しました。合計504人のうち116人が11月までに新たに住民票に記載され、そのうち80人が家裁に申し立て裁判手続などを経て、出生届を無事に出すことができました。戸籍を持つことができたのです。

 明治期にこのような嫡出推定の規定を設けたのは、家父長の権限が強かった時代に、父親の勝手で、「私の子ではない」などと言われたら、子どもの権利が守られないという「子どもの人権重視」の観点からだったそうです。
 立場の弱かった妻と離婚するのは自由だが、おなかの子どもの人権は守ろうということだったのかもしれません。

 様々な「事情」を抱えて生まれてくる子どもがなくならない以上、無戸籍者問題はすぐになくなるものではありません。「10万円」をきっかけに法務局や法テラスの「寄り添い」もあって戸籍を獲得できた人がいたものの、法務省によると、令和2年12月時点で、881人の無戸籍者(住民票を持っていない人も含む)がいます。(私は、法務省がつかめていない人がこれ以外に多くいると推定していますが)
 ともあれ、881人人のうち、73%に当たる640人が出生届を出さない理由として、「嫡出推定制度により、夫の子と扱われることを避けるため」としています。

 この民法改正が一日も早く実現し、1人でも多くの無戸籍者問題を解決したいと願っています。(法制審の今のペースでは改正法案がまとまり、国会で審議されるのは来年の通常国会以降となります)